ロクエヒロアキ

世界はこれだけ広いのに
ぼくらの秘密を隠す場所だけが見当たらないから
なれない手つきでこしらえたマントにくるまり
息をひそめ
いつも
なにをしている最中も
待っている

あたためすぎた牛乳で
おんなじように火傷した舌
でも
ぼくらのなかには
お互いを傷つけあうための刃物はない
そんな欠落した辞書を
くらやみのなかでそっと開いては
愛の意味を調べあい
ほほえみあうけれども

なんとなく
にぎりしめた拳のなかで
血潮は
すこしずつにごってゆくようで
ああ
ぼくらの関係は
どんどんどんどん透明になっていくようで
鳥のように空中で死んで墜落しても
きっとだれも知ることがないのだろう
それでも
このいびつなかたちを
しあわせと呼ぶことに
かまびすしい怒濤に足をさらわれることなく
確かにそっとうなずいたから
希望に調温された水だけを吸うような
純粋培養した花を
二度と
見ることがかなわなくなっても

雨がやんだよと
掠れた声できみが言う
無言のままうなずいたぼくは
床に放り投げられたままのシャツを
甲冑のように身に纏う
ぼくら特製の静謐を
釦と釦穴のすきまに
証のように寄り添わせて


自由詩Copyright ロクエヒロアキ 2013-04-25 00:01:28
notebook Home 戻る