中庭のある小学校で
夏美かをる

?公園に女の子が八人いました。
さらに後から男の子が何人か来ました。
全部で子供は十五人になりました。
公園に男の子は何人いますか??

レスリーは両手の指を曲げたり伸ばしたりしている

「このブロックを使ってみてもいいよ」
と私が言うと
ブロックをゆっくり十五個まで数えて、
そらから、更に八個加えて
その後は
何度も何度も
一から数え直している

「ねえ、どうすればいいの?」

「ごめんね。これはテストだから教えられないの。
自分で考えてごらん」

レスリーは困った顔をして
ブロックをいくつか掴んでは
出したり引っこめたりし始めた

「ファイブ、シックス、セブン、エイト…」
形の整った薄い唇から
うっとりする位完璧な英語の音が漏れている

きっと今レスリーの心が描く公園には
数字の八と十五の形をした遊具があって
その周りを
元気のいい女の子と男の子が
無秩序に走り回っている

長い睫毛がピクリと動いて
眉間に皺が寄る

?一体公園に男の子は何人いるのだろう??

小学校一年生の子が真剣に悩むことがあるとしたら
こんなことや?Thursday?の綴り方、
或いは
真っ白な画用紙に何の絵を描こうか?
そんなことだけでいいはずだ

それが
いじめや虐待や育児放棄…
などであっては断じてならない

結局レスリーは
正しい答えを見つけられなかった
それでも
「よく考えて頑張ったね。えらかったよ!」
と私が言うと、
初めて真っ直ぐ私を見つめて
「サンキュー!」
と前歯のない口元をほころばせた

その瞬間
キラリと輝いた虹彩が
中庭の土を押しのけて
ただ上へ上へと伸びようとしている
クロッカスの新芽に鮮やかに映え、
私の網膜に
瑞々しい萌黄色の輪をふたつ
しっかりと焼き付けた


自由詩 中庭のある小学校で Copyright 夏美かをる 2013-04-24 09:49:52
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