渋谷。リップスティック。14歳。
いとう



初めて見かけたのは午後6時
センター街の陰でうずくまり
待つことを放棄しながら
背伸びをするリップスティック
名前は知らない
まだ明るい
これからの夜

1人でいる子を狙うほど
街の常連は馬鹿じゃない
スペイン坂を上るリップスティック
野良猫と捨て猫が交じり合う午後10時
君の若さはまだ
誰にも認知されずに
君さえも認知できずに

ふらつきながら身をまかせる午前2時
居場所をみつけたリップスティック
大きな音の流れる箱の中
澄みきった目を見開いて
真っ暗な水の底を探りながら
さしのべる手はいつも空回りで
おぼつかない痛みを絡みつかせて
浅くゆるやかに
君は沈んだまま遊んでいる
沈んだまま流されていく

澱んだ水の中に眠る宝石
そんな幻想を
リップスティック
ねぇ
どこで覚えたの?

JRは優しい周遊船
最後に見たのは午前5時
コインロッカーの中の彼女の秘密
帰る場所はどこにもなくて
水の底で拾ったガラス玉を
大事そうに
撫でている

リップスティック
慰めすら聞こえない
悲しみさえとどかない
そんな惨めな
水の底で








未詩・独白 渋谷。リップスティック。14歳。 Copyright いとう 2004-12-28 09:03:28
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