役者は夜になった
nonya


役者は
媚びてしまった

目の前の毒リンゴを
食べてしまった

役者が
安っぽい悦楽で
身体中を痺れさせている間に

観客は
優しい嘲笑を浮かべつつ
足音もたてずに去っていった

慌てて
毒を吐き出そうとしたが
出てくるのは毒ではなく
リンゴばかりだった

役者は
初めて自分の糖度を知った

ほどなく
役者の顔と身体と性根は
青黒く変色していった

やがて
項垂れたまま楽屋に戻る頃には
とっぷりと暮れてしまった

誰も
役者には気づかない
彼自身が夜になってしまったのだから

星の虫喰い穴と
月のカギ裂きから
人の夜を垣間見ながら
役者の咽び泣きは霧になった

報いなのだ
あまりにも言葉を弄び過ぎた



哀願嘔吐欺瞞  恐怖虚栄軽薄  
 孤独   嫉妬   執着
  焦燥呻吟  憎悪戯言


  恥辱慟哭鈍痛悲鳴不安
   閉塞    暴発
    未練無視憂鬱
     劣情歪曲



人の影が夜の闇に触れたとたん
発せられる途方もない悪臭を
さんざん嗅がされた揚句
東の空が微笑み始める頃には
役者は
きれいさっぱり忘れ去られた

もちろん
来る日も来る日も
それは続いた

役者は
夜になったのだから





ところで
今宵は新月
月は縫い合わされた


流れ星だって?


ふんっ
泣いても無駄だよ


自由詩 役者は夜になった Copyright nonya 2013-04-13 10:40:37
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