幸福
吉岡ペペロ

中学生のころ

幸福という映画を観にいった

当時映画といえば二本立てで

アモーレの鐘というのが同時上映だった

あのころぼくはさびしかった

じぶんを置いてきぼりにして

ひとはこころを目まぐるしく変えてゆく

みんなぼくより大人で

みんなぼくより我慢していた

そして世の中をうまく生きていた

でもひとは理不尽で残酷で

ぼくのことが疎ましそうだった

どんなに意地悪なひとよりも

ぼくの評判のほうがずっと悪かった

幸福は暗い映画だった

知恵おくれの妹を妊娠させた実の兄

妹は堕胎手術の失敗で死んでしまう

堕胎をすすめた相談員のお姉さんは

事件に巻き込まれて死んでしまう

お姉さんはその事件担当の刑事の恋人だった

刑事の同僚は奥さんに逃げられて

ふたりの子供と三人で暮らしている

その暗い映画を見つめながら

ぼくは幸福について考えていた

幸福とは状態のことではない

幸福を見つける能力のことだ

そんな中学生らしい頭でっかちなことを

こころで口にしながら見つめていた

あのころぼくはさびしかった

じぶんを置いてきぼりにして

ひとはこころを目まぐるしく変えてゆく

みんなぼくより大人で

みんなぼくより我慢していた

そして世の中をうまく生きていた






自由詩 幸福 Copyright 吉岡ペペロ 2013-04-10 00:12:51
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