『あっ』というクッションに似たもの
そらの珊瑚
「かあさん、コンビ二で『レシートいりますか?』って言われたら
なんて答える?」
と中学生の娘が聞く。
「ふつーに『いりません』というかなあ」
と私は答えた。
「えっそうなん。私はどうしてか、『あっいりません』って言っちゃうんだよね」
と娘が言う。
どうやら『いりません』は拒絶を表す言葉なので、むきだしで言ったら、言われた方は少なからず傷ついてしまうのではないか、という気遣いから『あっ』をくっつけてしまうらしい。
そして、自分が相手の気持ちを考えることのないKYな人だと思われたくない、ということ。
人間関係で、そのものずばっと言うのではなくて、歯に衣をきせろ、ということだろうか。
『あっ』というクッションに似たもの。それを自分と他人の周りに置いておけば、転んだときにも怪我をしなくて済むかも。怪我をしたとしても、軽くて済むのかもしれない。
娘はまだ知らない。(と思う)
告白をして断られる場合、クッションなしで断られた方が、意外と立ち直りが早いということを。なまじクッションがあったせいで、ごろごろ寝転んでみたり、抱き枕のようにぎゅっとしてみたり、お天気の良い日にはおひさまに干して、弾力が復活しないかなあなどと眺めてみたり、腹立ち紛れにボコボコに殴ってみたり、しょーもないことをしてしまう。
捻挫だとたかをくっていると、いつまでもうじうじ、梅雨時なんかはしくしく痛んで、感傷という甘い言葉にすりかえてためすがえす撫でてみたりするけれど、すぱっと切っちゃって、ざくっと縫ったほうが、傷は案外早く、きれいに治る。(と思う)