影のような男
草野春心



  よれよれの野球帽をかぶった
  一人の男が歩道に立って
  車の往来を眺めている
  肌寒い初春の朝に



  ジャンパーのポケットに突っ込んだ
  両の手をもぞもぞさせながら
  男は私を見向きもしない
  強い風が街路樹を揺らすと
  それに合わせて身体を揺らす
  木の落とす影のように



  初めに白い閃光がきて
  それから激しい雷鳴が響く
  名もない何処かのビルの一室
  巨大な無数の機械がカタカタと動き始める
  あなたの肩は雨に濡れ
  私の耳は聴こえなくなる
  揺れる木の影のように、
  もう誰も引き返せない





自由詩 影のような男 Copyright 草野春心 2013-04-07 10:07:07
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