詩想
葉leaf

二人のホームレスが同じ公園に暮らしていた。一人は家庭の不幸により、暫時行き場所を失った優秀な青年。もう一人は幼い頃からの窃盗の常習犯で長く浮浪生活をしていた。二人は意気投合し、配給される食事を一緒に食べたりしていた。浮浪者はことあるごとに約束をした。どうでもいい約束ばかりだった。「明日も一緒に飯食おうな、約束だぞ。」そんなものばかりだった。「お前はいつか偉くなる。そのときは俺を秘書に雇え。約束だぞ。」そういう重い約束も気軽に取り結んだ。青年は浮浪者のその癖をとても面白がった。だがある日、青年は浮浪者との約束が守れなくなってしまった。学生時代の知り合いと連絡が取れて、一緒に事業を起こすことになり、浮浪者の寝ている暇に旅立たなければならなくなってしまったのだ。事業は成功し、青年は毎日忙しく仕事をこなし、ホームレス時代のことなど忘れてしまった。だがある時、訪問した顧客の事務所がその公園の近くだったので、ふと思い出して青年は公園に寄ってみた。ダンボールでできた家の中に浮浪者はまだいた。青年は浮浪者を憐れんだ。だが浮浪者は言った。「お前は約束を守らなかったが、本当は約束を守っていた。俺はお前と、言葉に出さなくとも、お前が偉くなることを約束していたのだ。確かにお前は言葉の上で、俺と飯を食う約束や俺を秘書に雇う約束を破った。だが、言葉になっていなかった「偉くなる」という暗黙の約束をお前は守ったのだ。」青年は浮浪者と固く握手をして涙を流した。浮浪者は彼が泣くのに任せておき、その後その公園にとどまった。「俺はお前の秘書になる約束を破る。」


自由詩 詩想 Copyright 葉leaf 2013-04-07 01:46:36
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