ぼくらの夏
梅昆布茶

入道雲がたかく盛り上がっていた
あの丘の向こうにぼくらの夏がある

縁側にふたりならんでこしかけて西瓜を食べた

僕が種を飛ばすと君はぼくより遠くへとばそうと
おたふくみたいに頬ふくらましてる

朝顔が笑ってるみたいだ陽はたかい

木陰は涼しそうで道は白く乾いてときおりオニヤンマが横切るのだった

おばあちゃんをこの夏亡くした君はそれでも健気に陽気なふりしてる

古い蔵の白壁が田舎の陽炎のなか揺れている

蒼く膨らんだ稲穂たちはだいぶ重そうで風をうけてサワサワとなるのだった

井戸水を金盥に手押しポンプでなみなみと満たすと今度は

青い壜のラムネとプラッシーを冷やす

そのあと僕たちは花札をしてこいこいで僕がぼろ負けした

やくそくだからって罰ゲームの落書きを顔にされた

彼女はぼくにちょび髭を描いてひとりでうけている

彼女は名うてのスタイリストだが実家はこんな感じで

僕の田舎とさして変わらないし空気が同じだ

午前中通った洞窟は冷んやりとして空気が露を含んでいた

東京は田舎者の集まりだが

みんな何時の間にかすました都会顏に変貌してゆく

それが正しいのか僕にはわからない

クライアントに振り回されへこへこ機械人形の様に頭を下げて

横柄な顧客を減らさないように氣を配る

すり減らした神経だけがさらに尖ってゆく

こんな毎日だって無いよりはいいさ生きていれるんだもの

だから田舎はいい蛙と遊んだり

ワンコと草叢を掻き分けたり

ヤブ蚊の大群と闘ったり

イナゴの佃煮だって美味しいんだぜ


牛蛙がボーボー鳴いてる沼だってそれはそれで

僕の幼い記憶を呼び覚ますサイン

ぼくらの夏は遠い夏

蝉がじんじん鳴いているあの夏なんだ

裏山のそのまた向こうの空に

飛行機雲が一筋風に流されて

形を失っていった








自由詩 ぼくらの夏 Copyright 梅昆布茶 2013-04-01 01:39:47
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