蛸に思う
平瀬たかのり

 昨日の晩は蛸を甘辛く煮て食べた

 最近は昔に比べて値が上がり
 生意気にも百グラム二三八円とかしやがる
 おまけにどいつもこいつも
 モロッコとかモーリタニア産で
 明石のこやつなんざいったいいくらすることやら
 あもあもあも

 そういえば一番最初に勤めたスーパーのバイヤーが
 今日はハンゲショーだから蛸を食べる日、とか言ってて
 はて何のことやらと思ったのだが
 稲の根が蛸の足のように伸びるようにとの願いをこめて
 その日に蛸を食べるのである、てなことを
 その時聞いたような聞かなかったような
 あとでネットで調べてみようか
 あ、バイヤー元気かな
 家に呼ばれてよくごちそうしてもらったなあ
 奥さんきれいな人だったよなあ
 ちなみにハンゲショーとは半夏生と書くのである
 あもあもあも
 うーむ、ちょっと砂糖が多かったかな

 いや待てよ、バイヤーじゃなかった
 ボクが辞める少し前に店長になったんだよな
 お子さんいくつになったろうきっと上の子はもう成人だ
 えーと文太くんと瞳ちゃん、うわ名前覚えてるわ
 あのまま勤めてたらどんなことになってたんだろうな
 なんだかなあ、思い出しちゃったなあ
 思い出させるんじゃないよ
 蛸のくせに
 あもあもあも



自由詩 蛸に思う Copyright 平瀬たかのり 2013-03-28 16:23:55
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