コブラツイストガール
カンチェルスキス

 




 男の部屋なんて
 臭くてオナニー三昧だ
 自分ではわからない臭い
 自分の臭いしか返ってこない毛布
 畳にころがった週刊プレイボーイ
 ビデオを借りに行くほど熱心じゃないけど
 ネピアなんてものじゃない何かそれに似たもっと安いティッシュを突き抜けた精子が
 畳にこびりついて拭き取るのも
 めんどくさい
 好みの女子アナウンサーが
 テレビに出てくると
 激しくこすって画面にぶっかけたんだ
 画面が切り替わって
 アフガンの戦争のニュースになったりした
 それがどうした
 おれはかまわず発射した
 拭き取った
 垂れ落ちる精子を拭き取るおれは
 垂れ落ちるおれを拭き取ってるみたいで
 絶妙に悲しかった
 その後世界におれしか生き残ってないと思って
 安心した
 オナニーした後の小便は先っちょからいくつも分かれて便器をはみ出るってのは
 世界の男の常識なんだよ
 床にこぼれ落ちてそれも拭かないんだよ
 だから臭いんだよ
 浴び続けた小便と落とし続けられたクソとで
 赤茶けた便器だ
 便座も変えなかった
 もとはピンクだったけどチョコレート色になってた
 ベッドなんてなかったから
 もちろん薄っぺらい布団にくるまった
 自分の臭いしかしない布団というのは
 何やら悲しいものだ
 その臭いにうまく気づけないから悲しいのだ
 臭いと指摘される人を持たないから悲しいのだ
 部屋まで続く狭い階段だった
 繰り抜いたリンゴの芯みたいな細くて狭い階段だった
 郵便入れにあふれかえるデリバリ嬢やエロビデオの通販のチラシに目を落としながらのぼった
 多くの時間を過ごした部屋で
 新聞紙や雑誌の山
 ゴミ袋からあふれたビールの空き缶が玄関に何袋も山積みになってた
 デミグラスソースの缶もあった
 ビーフシチューが得意料理だった
 ガスコンロにこびりついた海に重油をぶちまけたみたいな油汚れ
 こすっても消えない流しの赤錆
 爪でこそげ取ると跡がそのまま残るほど
 埃に埋もれたような電話
 おれはなぜか知らないが
 お好み焼きを作るときに使うボウルを
 風呂桶代わりに使ってた
 一応ユニットバスだった
 シャワーカーテンをつけなかったから
 シャワーを浴びたら便器までずぶ濡れになった
 そして便所のスリッパは
 ビーチサンダルだった
 便器にこびりついた陰毛
 人のでも嫌だがふだんは気にならないけど
 あるときふと汚物だと思ってしまう
 ベランダに二層式の洗濯機があった
 夜になるとその上にあぐらをかいて
 マルボロを吸った
 向かいのアパートの住人の窓のブラインドが
 そのたびに下りたっけ
 一人も女を連れ込まなかった代わりに
 誰もやってくることはなかった
 人との出会いもいくつかあったけど
 おれが思う人ってのは別にいなかったから
 別れもなかった
 何もかも通過していくだけで
 それをいいとも悪いとも思わなかった
 おれはタバコを吸った
 天井にのぼってゆく煙が
 蛍光灯の光をかすめるのを眺めた
 よく冷えたロング缶のビールを飲んでるうちに
 ビールはなまぬるくなっていった
 チワワを部屋で飼ってる一人暮らしのストリッパーを襲いたいなと思った
 モスバーガーでもらった名前も知らないちっちゃな植木鉢が
 テレビの横で
 これ以上枯れないぐらい枯れていた
 そしてその植木鉢に見つめられながら
 もうそれを渡してくれた店員の顔も覚えてない
 おれはオナニーした
 部屋に入居した当時は
 ちゃんと靴を脱いで入ったけど
 部屋を引き払う頃には
 土足だった
 れっきとした畳の部屋で
 おれは手淫と言わずオナニーと言い
 アウトソーシングの名のもと
 毎日職場が変わる倉庫仕事
 ゴッドや着飾ったドレスの女なんていやしない
 ドリルにからまった陰毛みたいな痛み
 のらくらと西洋暮らし。









自由詩 コブラツイストガール Copyright カンチェルスキス 2004-12-26 20:50:23
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