この春を何と呼ぼうか
ただのみきや

春がやさしく微笑むと 
白く積もった嘘が融け
ぬかるんだわたしの心を
悲しい泥水となって流れ下る

ひび割れたアスファルトの肋骨
空に頭を踏まれたままの道あるいは時間か
仰向けに開いた記憶の裂け目
まだ腐乱していない全裸の夢か

頭の固い新米教師のよう
不快な善意が悪意を凌ぐころ
理屈の背中がぱっくり割れて
華やかな憎悪が羽化を始める

原色の森で一足早く
踏み迷う象のようなこどもたち
ゆるんだ口元からは
失語の欠片がこぼれて滲みとなる

やがて乾ききった視線を風がなぞり
遠く逃げ水を湛えた道あるいは時間か
陽射しの中で項垂れるもの
春は甲斐甲斐しい母親のようだ


自由詩 この春を何と呼ぼうか Copyright ただのみきや 2013-03-21 00:17:35
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