この春を何と呼ぼうか
ただのみきや
春がやさしく微笑むと
白く積もった嘘が融け
ぬかるんだわたしの心を
悲しい泥水となって流れ下る
ひび割れたアスファルトの肋骨
空に頭を踏まれたままの道あるいは時間か
仰向けに開いた記憶の裂け目
まだ腐乱していない全裸の夢か
頭の固い新米教師のよう
不快な善意が悪意を凌ぐころ
理屈の背中がぱっくり割れて
華やかな憎悪が羽化を始める
原色の森で一足早く
踏み迷う象のようなこどもたち
ゆるんだ口元からは
失語の欠片がこぼれて滲みとなる
やがて乾ききった視線を風がなぞり
遠く逃げ水を湛えた道あるいは時間か
陽射しの中で項垂れるもの
春は甲斐甲斐しい母親のようだ