潮
草野春心
雨が降り木々の葉は濡れた
川沿いに張られたガードレールの錆び
秘密を抱えるように口を噤む家並み
けれども日記帳にしみこんだ太陽の匂いを
夜がきてもこの胸に憶えている
枯れた小屋に詰めこまれた仔馬たち
その沈黙する瞳は黒曜石よりも荘厳に輝く
白い稲光が一瞬、
暗闇の幕を乱暴に引き剥がすが
仔馬たちは身じろぎひとつせず佇んでいる
雷鳴がすぐに追い討ちをかけ
激しい風雨が窓を殴りつけてもなお
昨夜、あなたの残した静かな口づけ
舌に絡みついた懐かしい潮の香り
あなたが握りしめた手がいまも温かい
あなたに言いそびれた言葉は発熱をやめない
この夜を越えて、
また次の夜を越えても
渚に打ち寄せる波のように私たちは明日を生きる