草野春心



  雨が降り木々の葉は濡れた
  川沿いに張られたガードレールの錆び
  秘密を抱えるように口を噤む家並み
  けれども日記帳にしみこんだ太陽の匂いを
  夜がきてもこの胸に憶えている



  枯れた小屋に詰めこまれた仔馬たち
  その沈黙する瞳は黒曜石よりも荘厳に輝く
  白い稲光が一瞬、
  暗闇の幕を乱暴に引き剥がすが
  仔馬たちは身じろぎひとつせず佇んでいる
  雷鳴がすぐに追い討ちをかけ
  激しい風雨が窓を殴りつけてもなお



  昨夜、あなたの残した静かな口づけ
  舌に絡みついた懐かしいうしおの香り
  あなたが握りしめた手がいまも温かい
  あなたに言いそびれた言葉は発熱をやめない
  この夜を越えて、
  また次の夜を越えても
  渚に打ち寄せる波のように私たちは明日を生きる




自由詩Copyright 草野春心 2013-03-19 23:39:03
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