春疾風
月形半分子

どうしようもない憎しみが突然湧きだす日がある。強く烈しく悲しく深刻に。誰かが私を使って、人がどれだけ人を憎めるのか試すかのように。夫を。姉を。母を。父を。子を。私は憎む。何故か。血や生活が近ければ近いほど憎む理由など要らなくなるからだ。憎しみ。その限界を知らなければ気がすまないように実験は続く。いや、憎しみは際限がないのだと証明したいのか。春疾風が吹く。塵埃が巻き上げられては渦巻き、雲までが不気味に薄汚れてしまう中、野良犬の垂らす涎がどこに落ちたのかを見届けられた者がいるだろうか。私は自分の憎しみが、どこに落ちるのかを知らない。誰かが見届けるのだろう、か。私は憎む。ただ憎む。春疾風のなか、野良犬の涎が疾過していく。私は憎しみという焼けるようなお祭り騒ぎで、頭のなかが一杯だ。沸きたつヤカンのように。なのにすることもなく私はただ立ち尽くす。そうしていると、憎しみが塵埃に似ていくのだ。何故だろう。春疾風の中。



自由詩 春疾風 Copyright 月形半分子 2013-03-14 00:36:36
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