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葉leaf

ドアを開けると その先にはまたドアがあって その鍵を開けるのに一苦労し そのドアをやっと開けてもその先にはまたドアがあることは 余りにもわかり切っていることだから 開けたドアをいったん閉めて しばらく元の部屋にとどまってみる 時計の音を聴き 布団に身を投げ 軽く本でも読んでみる

人間ではなかった 人間に近くもなかったし 人間に似てもいなかった だが人間のように呼吸し 人間のように恋をし 人間のように死んでいった そいつを何と名づけるかは各人の自由だし そいつも今となっては気体と液体のはざまにいるだけだが 試みにそいつを 「私」と名づけよう

何かをドロドロに溶かしていく その何かは僕の体であったか あなたの幸せであったか 彼の失敗であったか 今となっては判らない 輪郭は余りにも鬱陶しいから 言葉は余りにもやかましいから 形や言葉を逐一ドロドロに変換していき そのドロドロをおいしく吸いながら 今日も僕は生き長らえるのだ

宝箱の中に閉じ込められた大きなシステムの広がりを浴びて 世界中のあらゆる命に触れた気がしていた 宝箱の鍵は閉ざされ 僕は外の世界を知らず 宝箱が何者かによって開けられた 或いはそれは僕だったのかもしれない すると宝箱のシステムはいよいよ自然や宇宙を取り込み もはやそれは只の古い箱

早朝、薄明が家や木に移ろいを与える頃 ガラスのような空から太陽が歌い出した 建築に重さと堅さを与え 木から秘密と悔恨を奪う その歌声は水晶のような挨拶 僕はその挨拶に応えるために後ろを向いた 無防備な背中の広がりに歌を泳がせて 大きく息を吸って太陽に小さくごめんなさいと

集まってくる人・自動車・書類に 一つ一つ丁寧に判を押す 生まれ変わってきなさい、と 生まれ変わって集まって来た人・自動車・書類に 今度は目配せする もう一度生まれ変わってきなさい、と もう一度生まれ変わり集まって来るものたちに 優しく告げる 何で私なんかの言うことをきいたのですか

捨てられ続ける現在を 拾い集めたら過去になっていた この過去は未来にしたい この過去は未来にしたくない いつも現在はとげだらけで触りづらいから 過去になってからおもむろに未来へ差し出す もう一度やって来い 偶然が夢の卵を割り 現在へ幸福を突き刺すように もう一度あの密かな幸福を


自由詩 twitter Copyright 葉leaf 2013-03-07 03:18:13
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