嵌め殺しの窓
ただのみきや

アパートの暗い階段を上って行くと
二階には嵌め殺しの窓があり
そこだけがまるで古い教会の天窓のよう
純粋に光だけを招き入れていた

迷い込んでいた一羽のすずめは
幼子の震える心臓のよう
嘴を半開きにしたまま
狂ったように怯え

硬い光の壁に幾度となく
羽ばたいては突進し
そのたびに激しく身を打ちつけて
よろめくように また身を翻し

止まる所も見いだせず
空中を右往左往し
壁にも爪を掛け切れず
もがきながらも なお繰り返すのだ

本能が光へ空へと向かわせる だが
そこには決して超えることのできない透明な壁がある
脱出の道は階段を折れて下った暗闇の底
鳥にとっては死の陰の谷の向こうだ 

なんとか下に追いやろうとしたがだめだった
余計に怯えてしまい窓に体当たりを繰り返すのだ
成す術もなく
わたしはその場を後にした

鳥にも人にも性がある
抗えない本能としての衝動が駆り立てる
暗闇から光へ
束縛から自由へ
不安から安らぎへ
恐怖は見えざる巨人のようにわたしたちを追いたてる

だが知らなければいけない
時には嵌め殺しの窓が人の歩みを阻むことを
それは運命の皮肉のように 決して届かない
ガラスの向こうの幸福だけを見せつける

暗がりの生活から見上げる美しい世界
目が眩むほどの輝きを見てしまったばかりに
もはや見出せなくなるのだ
暗闇を超えて生きて行く その道筋を

男と女もまた然り
互いの間のガラスに気がつかず
手が届くはずなのに届かない
夢の生活を見つめながら

ゆっくりと 干からびて行く


自由詩 嵌め殺しの窓 Copyright ただのみきや 2013-03-06 23:07:48
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