塩を 少々
るるりら

さかのぼる 水晶のような 水滴が
高速バスは雨の中を走ると フロントガラスの水滴が
同じスピードで のぼってゆく
静かな行列が たゆまなく のぼってゆく
そんな様子を何時間 見続けていたでしょうか

体が火照るのは
わたしの中の血が のぼっているからで
バスが赤穂をとおるころ
すこし雨が雪へと結晶しかけ
わたしも結晶しかけました


赤穂は塩の町だと思い至らずにいたら
うっかり私は フロントの一粒の水滴になるところでした
ガラスをワイパーが両方から清掃するので
中央の水滴だけが 外気に押し上げられて 
扇の形に のぼっていました

まるで その様子は
祖先を見るようです
たった一粒の命が
進化して
わたしだったり
魚だったり
プランクトンだったり
する する すると
のぼってきた
わたしたちは 
わたしは水滴

たったひとつのところからうまれた
水滴のような命
が おなじスピードで拡散し
上へ上へとおしあげられ

しかし ふと わたしは水滴として結晶せず
我に返ったのです
そこが【赤穂】だという
案内板を見たあたりで

塩の匂いが
してました
わたしも
お魚と違わない
わたしも
水滴と違わない
とても違って見える
あの人とも
違わない
そんな塩の匂いです



自由詩 塩を 少々 Copyright るるりら 2013-03-05 21:29:11縦
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