それぞれの雛
黒ヱ

緑線の汀 ふわりと蒸し
温い風に身を委ね
寒空の下に立ち尽くす人 想う

悠久の時よ 軽々と瑞流れ
いつの間にやら 既にいつかも忘れ
霞ませながらに 塗り潰して行くのか

「ああ 流されそうになる」
まだ少しの彩を ほら
無二のものと知って
「消えないで」

独りでに浸り その腕には空を抱き
黄昏と映え 陰た私の水鏡に
遠く 薄れかけの絵を灯す

別れ 相対し お互いの想いは
必ずしも 全て交わってはいなかった
「それでも」
あなたは言う 幸せの在り方を
その先に 夢幻の光を咲かせ 
時をのせた風を 癒しと成し
遠くへ吹く



紅に忍び 柔らと冷やし
その身を真心のまま 脱がす
そこは 二人だけの寂しさ 

瞬きの間よ 悲哀の意味
長短は真逆し 記憶を疑ってしまう
廃れきれない物が また扉を開いた

「ねえ 声上げてしまいそう」
今を知れない 私はもう
祈りの意味も知らず
「もう一度 聞いて」

失った物を全て掻き集めて
重ね合わせた 数多の瓦礫
それを 未だの思惑に寄せて

縺れ合い弾けた糸は
繋ぎ先に在ったものを 忘れられず
「それだから」
澄み切った霜降る 空の下
受け入れられず 葉を千切る
眩暈を起こしてしまう
その赤さに



軽やかに 風雪の舞って
かしこむ身を包む
その中で ようやく咲いた芽
「何故だか 届くような気がして」
あなたはそこに
私はここに

水平線割り 光り出す
聞こえぬ便りがあってもいい
「また 夢を見たよ」
あなたの

花はいずれ咲く
記憶は飛散する 散り行く桜の如く
また 何度も 何度でも咲こう
「会いに来たよ」
優雅で華奢な花
何色にも染まり 何でも染めれる
極染色の花

透き通り 飛び交う蝶の好む
相求めた 優しい容

それは
お互いの幸を奏で 照らす
本当に 
そう とても 薄い彩


自由詩 それぞれの雛 Copyright 黒ヱ 2013-03-02 23:07:08
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