OVER OFF, OVER ON(無理してでも飲むんだ)
竜門勇気


30代のはじめの僕は
銀色の自転車を買って
どこまでも走っていった

ほんの少しで取り戻せそうな
やけくその若さは
飲みきれなかったコーラの缶と一緒に
便所で泡立って消えていく

おめーなんかまだ
ただの若造さ
そう言われても
僕はあんまりに突然に
大人になりすぎた気がした

もう子供じゃないって証明書
クレジットカードの文字が
指先に気持ちいい
ガソリンが安くなるんだ
そのうちポイントが貯まるんだ
本当にいるのか?そんなもんが

自転車は街をすり抜ける
山をすり抜ける
夜になったらライトを付けて
ダイナモを回すんだ

若造はまだ人生ってのをわかってねーな
おめーはまだ若造さ
俺たちよりガキなのさ
そんなふうに言われても
寒い風に日差しは気持ちいい
空気がよく冷えた水みたいに美味しいから
冷たくて暖かいってのは人生の一部な気がするな
ガソリンの値段やポイントやクレジットカードより
もっと身近な気がする
なんだろう どういう気持があるんだろう

銀色の自転車のかごに
コーラの缶がある
一口だけでも飲みたいと思ううちは
ここに転がしておこう
今度は捨てないで
無理してでも飲むんだ
街を越えて人混みから逃げて
無理してでも飲むんだ
ダイナモを回して夜から逃げてでも
無理して飲むんだ
無理してでも飲むんだ


自由詩 OVER OFF, OVER ON(無理してでも飲むんだ) Copyright 竜門勇気 2013-02-27 12:16:01
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