きしゃ
ねなぎ

目が覚めて
唐突に
帰りたいと
思った

何時ものような
寝ぼけたような
気怠い午後の
客先での現調の帰り道に

持ち帰りとした
案件の書類を
精査している
鞄の中で

何かが
音を立てた
気がして

列車を
降りられなくなって

気がつけば

揺れるような
氷の張った
田んぼの中の
畦を歩いている

どこへ帰ると
言うのだろうか
帰る場所など
無いのに

刺すような西日と
暖房に溶かされて
夢のように

この先に
納品書を
届けなければ

電線の無い線路が
冷たく続くので
この道には
枯れ草しか見えない

多分
この先に
行先なんて
無いというのに

鞄を強く握れば
その先から
冷たくなって
コートの中を探しても
名刺さえ見つからない

どこが先だと
言うのだろうか
どこを見回しても
前も見えないのに

確率でしか語れない
振動を
微睡む意識で
繋ぎ止めて

遠くで
煙が見えた
気がした

理解では無く
感覚で
答えるのでは無く
行動で
言葉では無く
感情で
幻想では無く
現象でしか
世界は形作られていないと言うのに

気が付く事も無く
雪の被った山を
見上げて見るが
道が解らない

列車を降りられなくて
帰りたく無いと
思えた

帰る場所など
無いと
言うのに


自由詩 きしゃ Copyright ねなぎ 2013-02-19 03:39:06
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