夕暮れの影
殿岡秀秋

国道四号に抜ける
夕暮れの千住の小道に
スタンドバーの看板の
男の顔の上半分が赤くなる

大人になればこの店で
夜を過ごせるのか
まだ小学生のぼくは
家に帰るしかない

日の光が消えて
自動車がライトをつけて
街灯が信号のように点滅して
何を知らせるわけでもない

街灯がにわかに明るくなり
塀に煙突のような影が
幾本も現れて
いつのまにかぼくは囲まれている

胸の崖から
土くれが落ちて
暗い谷間に消えていく
そこから立ちのぼる声にならない叫び

家に走る
夜がなくて
いきなり朝になればいい
そうすれば眠らないですむのではないか

宿題をやって夕飯をたべて冷えた布団に入る
天井を見ると
裸電球の光が届かない隅に
影がはりついて
ぼくを見張るように
木の節穴から眼を出している


自由詩 夕暮れの影 Copyright 殿岡秀秋 2013-02-15 07:03:30
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