各駅停車で、春に向かう
小原あき

梅雨でわたしは列車に乗った
外はすごい雨で
だけどわたしは
傘を差さずに駅まで来た
わたしの顔から
涙が綺麗に消されていた

夏で蝉が乗ってきた
六年間ずっとホームで
この列車に乗れるのを
心待ちにしていたのだろう
羽化したばかりの羽を
自慢げにはためかせていた

秋で熊が乗ってきた
背中に大きな籠をかついで
その中にはたくさんの実があり
お腹の空いたわたしは
ひとつくれと交渉したが
ひとつもくれなかった

冬に白鳥が乗ってきた
白鳥の団体は別の列車に乗ったのに
といぶかしんでいると
集団行動に飽きたのさ
と教えてくれた

終点の春
蝉はいつの間にか死んでいた
これが急行列車ならば
間に合ったかもしれない

熊は食べすぎで
腹が破裂してた
そこから芽が出て
花が咲いていた
暖房のききすぎだ

白鳥は震えていた
温かいのに
なぜだか寒いんだ
と教えてくれた

わたしは服も
頬も乾いていた
洗濯したてのように
でも、すこしだけ
しわしわになっている





自由詩 各駅停車で、春に向かう Copyright 小原あき 2013-02-09 17:09:28
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