その日
夏美かをる
その日
私は独り鉄棒に腰掛けて
夕日を眺めていたいだけだった
鍵を掛けて体の奥に仕舞っていたはずの
シキュウという箱の中に
エイリアンの胎児が
突如侵入してきたみたいで
ただ不快で気持ちが悪くて
吐きそうだった
なのに
「おめでとう」と姉は笑顔で言い
「今日は赤飯炊いて待ってるからね」
と母は呑気に言ったりした
だけど私は家に帰りたくなんかなかった
泣きたい気がしたのに
ちっとも泣けなくて
叫びたい気がしたのに
全く叫べなかった
その日
私は独り鉄棒に腰掛けて
夕日を眺めていたいだけだった
町工場の屋根の上 茜色の空に
いつまでも沈まない真っ赤な夕日を