荒れ地2
……とある蛙

累々とした屍を乗り越えて生還した父親達
遠く鴉が狙う死にかけた子供の抜け殻
栄養不良の子供たちの細い手を握りしめ
彼らは生きて行くことを決意した。
社会の再建、国家の再建を決意した。

国家の再建、社会の再建
それは喰うことだった
とりあえず腹一杯喰って
鴉に負けない生を獲得することだった。

遠い我らの父親たちは
「我らの時代」がやってくると
思わなかった。いや、想像すらしなかった。
父親たちの望みは食あるいは家族の待つ家。
ささやかな幸せだった。

家族の待つ家にはモデルが突きつけられる
かつての敵国のホームドラマ
モダンで清潔で不必要に明るいドラマ
父親の威厳は喪失されたが
相変わらず外で食い扶持を稼いで
餌を求めて口開けている雛たちに
放り込む、豊かさ、教育、文化
全て与える父親達

予期せぬ隣国の戦乱と持ち前の勤勉さが
彼ら父親に「我らの時代」をもたらした
彼らが生還してほんの二〇年
「我らの時代」がやってきたのだ。
モダン清潔美食文化
成功者でない者も
成功者のような生活を享受する奇妙な時代


累々とした契約書の山のなか
相手に足下を掬われぬよう
細心の注意を払って取引を行う。
いつしか自分の背後の社会が後ろ盾となって、
自分の信用が、ではない。
肩書きの持つ信用だと気づくどころではなかった。
会社はそこそこの所得を保障していたし
このまま永遠のこの幸せな社会が続くと確信していた。

豊かな時代は貧乏を忌み嫌い
貧乏は悪
ヒーローは見栄っ張りや幸運児
「あくせく働く奴ぁご苦労さん」
という世界が出現し、
「労働者諸君」
という呼びかけはギャグでしかない。
米本位制から
金本位制
さらには不動産本位制から
目に見えない株本位制
あっという間の出来事だった。

そして、突然の株の大暴落、
土地価格の右肩下がりでバブルは弾けた。
その後のジリ貧
妄想によってつけられた勝手な価値
それは汗と等価ではなく
欲望の堆積と等価だ。

天罰のように
二度にわたって
大地は揺れた
それからこれから
まだ勝手なことを言う奴だらけで未だに
妄想からでられない幽鬼達がうろうろしている


自由詩 荒れ地2 Copyright ……とある蛙 2013-02-04 16:03:28
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