チョーク/10月
イシダユーリ

そこはいつも夏だった
降りしきる雪
枯れずに凍るひまわり


雪には構造がある
対称は
一瞬で
駄目に
なる
その分生まれる
土を覆いつくすほどに
それが耐えられない

あなたは言った


細い指で
細い煙草を
吸っていた
あなたは
廃線になった駅で
ホームから押し出される
影 だった
仕方なく笑う
仕方なく笑い続けたら
誰かが
殴ってくれるんだよ
頭の後ろを

かんなくずのような
人波が透けて
あなたの煙草の火が
見える
あなたは
うつむいている
思い出したように
立ち上がるその時
まで


ここはいつも50年代だ
もういないものばかりが
瞼の裏で
ちりちりと踊る
女優と妹が
兄さんと歌手が
まっくろい
柱になって
丘の上に
みえる
わたしは
からだを左右に揺らして
彼らをうごかす
視野の端で


そこはいつも夏だ
ひかりは降るものじゃない
と君は言った
君はそこでいつもアイスキャンディーを
食べている
西日だけがあたる
水色
桃色
看板にかかれた
海水浴場への
矢印
涸れている海へ
やってこない夜へ
滑りこもうとする
薄緑

君の舌は美しく腫れる





いまや君は私の小指の先ほどの大きさになっているやさしく押しつぶして
もいいのよそして卑怯者と言われてもいいのとあなたは言ったあなたは風
景をからだに映したまま目を細めたここはいつも夏ここはいつも夏揺られ
ながら眠る脂肪
わたしがあそこに吊り下げられているとあなたは指さす
触りに行ってきてと指さす
いやだ と言うだけなら 警察はこないね
わたしは 歩きながら 顔を歪める うつむく 空をみる
目をこすって
仕方なく




花は枯れず
凍る
一面の

一心に
伸ばされる

振りかざされる



飛沫




指が欠けている
わたしの
ことば
陽を
返す
さらされた
脂肪粒
足りないもの

撫でる
渇き


いってしまった


ここは
いつも

藍色の
水着が
カモメを
撲殺できるほどに
凍って
ひらついて
いる





自由詩 チョーク/10月 Copyright イシダユーリ 2013-01-27 18:43:37
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