火葬場で 
Lucy

二00一年十月

白い骨になった祖母が
熱気の中に横たわっていた
八歳の息子が私を見上げる
「お母さん、人ってこうやって焼かれるんだね。」
君に答える言葉がない
だって私も今初めて
焼かれた人の骨を見る
そして
これからも
見たことのない光景の前に
子どもと立ちつくすことしか
きっと私はできないのだ

家に帰ると
アメリカが戦争を始めていた
テレビが伝える
中東の貧しい国で
子どもがたくさん死にかけている と

「こんな時に何が言えるの?」という問いは
「こんな時に黙っていていいの?」という問いに等しく
昨日の饒舌を恥じ入ることが
今日絶句する立ち位置を許してくれる訳じゃない

まき散らす言葉の飛沫に目を凝らし
嘘でないものを探しても

臨終の祖母の耳元で
他の誰にも聞かれないように
首尾よく「ごめんね」を言うことだけが
せいいっぱいの良心だった

けれど
あの日 悲鳴をあげながら
世界の
いいえ私の足元で崩れ始めていたものが何か
知らなかったとは
言わない

確かに
見たことのある光景の前に
今再び
立ちつくすことしかしようとしない
私が居る

            (二00三年三月)


自由詩 火葬場で  Copyright Lucy 2013-01-21 15:00:20
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