峠道
月形半分子

故郷遠く背にすれば
曇天に霞みゆくは青く長い山の尾根
道に続くすすきがどこにでもいる老人のように
私にその淋しい手をふるのだ


通夜の日の廊下は疲れ果てたように行き止まり
昼なのに暗闇の匂いがたちこめる
嫁入り道具はりんどうの花ですね
祭壇で雨に濡れている乳母車よ

峠道よ
生きる者らは生き銭払う
生き銭なければ女は髪売り
男はお泪ちょうだいと体売り
爪の先ほどにも心の売れぬ道行きには
これでしまいと男も女も靴を売る

生きる者たちの素足が吾亦紅と咲くこの道は
いつか母の 父のいた道、越えた道
もう雨はやんだろうか
乳母車よ




自由詩 峠道 Copyright 月形半分子 2013-01-17 23:36:34
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