たくあんとぼく
ドクダミ五十号
大根は嫌いだと言う言葉が冬休みの合言葉だった
小高い丘が連なる様な古墳群の一角に施設はある
お世辞にも広いとは言えない畑の早朝は
しもやけやあかぎれの手指足指をからかって
まるで冗談のように頬のはたけを白々とさせる
つんつるてんの袖は乾燥したあおっぱなでひかり
お下がりの三乗だと上級生が顔をしかめるズボンは薄い
下は六つから上は十四までのガキ共等の白い息だけが
見えない針が充満したかのような大気で生きていた
冬の早朝に大根を抜いて切れるように冷たい水で洗い
二本一組に葉の根本を藁で縛って
差し渡した丸太をまるで跨ぐ様に干す
何故と問う事は墓石に小便をかけるに並ぶ禁忌だった
泣く事も歯を食いしばって耐えなければならない
一年分のたくあんは貴重な食料だと知っていたから
皺が寄り手で曲がるほどに干されたそれを
長年使い続けた樽の湾曲に沿ってびっしりと並べる
塩をして充分に炒った糠で覆いまた大根を並べて幾層にも
着色料も甘味料も入れない本当のたくあんだ
最後に落し蓋と重しをすれば一年分
麦飯とたくあんとシャケの切り身半分
恥ずかしくて包んできた新聞紙で隠し
背を丸めて食べた弁当
今となれば懐かしくも切ない思い出
飴色のたくあんは遠い記憶の中
作る事と食らう事とそして生きる事の真実を放っている