たくあんとぼく
ドクダミ五十号

大根は嫌いだと言う言葉が冬休みの合言葉だった

小高い丘が連なる様な古墳群の一角に施設はある

お世辞にも広いとは言えない畑の早朝は

しもやけやあかぎれの手指足指をからかって

まるで冗談のように頬のはたけを白々とさせる

つんつるてんの袖は乾燥したあおっぱなでひかり

お下がりの三乗だと上級生が顔をしかめるズボンは薄い

下は六つから上は十四までのガキ共等の白い息だけが

見えない針が充満したかのような大気で生きていた

冬の早朝に大根を抜いて切れるように冷たい水で洗い

二本一組に葉の根本を藁で縛って

差し渡した丸太をまるで跨ぐ様に干す

何故と問う事は墓石に小便をかけるに並ぶ禁忌だった

泣く事も歯を食いしばって耐えなければならない

一年分のたくあんは貴重な食料だと知っていたから

皺が寄り手で曲がるほどに干されたそれを

長年使い続けた樽の湾曲に沿ってびっしりと並べる

塩をして充分に炒った糠で覆いまた大根を並べて幾層にも

着色料も甘味料も入れない本当のたくあんだ

最後に落し蓋と重しをすれば一年分

麦飯とたくあんとシャケの切り身半分

恥ずかしくて包んできた新聞紙で隠し

背を丸めて食べた弁当

今となれば懐かしくも切ない思い出

飴色のたくあんは遠い記憶の中

作る事と食らう事とそして生きる事の真実を放っている


自由詩 たくあんとぼく Copyright ドクダミ五十号 2013-01-17 16:01:31
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