街の絵
月形半分子

精製されていく社会について


ゆるい登り坂が真っすぐにのびて、空に消えています。
その道には、両脇に銀杏並木が等間隔でならび、
それよりも長い間隔で綺麗なアイボリーの鈴蘭灯がたっています。そのとてもお洒落な通りは、白銀杏通りと呼ばれています。
通りにはカラフルな家屋の屋根がならび、どの家の庭もあふれんばかりに花や、木々が植えられ、道に面した集合住宅はどれもシンプルに塗装され、大きな窓の多さが、明るい景観作りに一役かっています。少し先にはスーパーの看板にディスカウントショップの賑わい。全面ガラス張りのカーショップ。今流行りのレストランがあるのです。
歩道の広い石畳を歩いているのは、犬をつれた老夫婦やカラフルなランドセルを背負った学校帰りの子供たち。夕刊を配りはじめた赤いバイクの新聞配達が行くところを見ると、今はどうやら、午後3時を少し過ぎた頃のようですね。
さて、この白銀杏通りには、この街1番の美しいものがあるのです。
この白銀杏通りの真ん中には、二車線道路の中央分離帯に沿って、真っすぐに並んで立っているものがあるのです。
それは万とも、千ともしれないごみ箱です。青い体に白い蓋で統一されたごみ箱が、道路の真ん中を坂の果ての、晴れ渡ったあの空まで、まっすぐに続いているのです。
その青いごみ箱の中には色とりどりのビニール袋や紙箱がぎっしり詰め込まれ、あふれんばかりに山積みとなり、そうしてやっと、その上にベレー帽のように真っ白な蓋を、斜めに可愛らしくかぶっているのです。
そのごみ箱のまわりには、入りきれなかった様々なものがプレゼントのように、下に積まれています。
なんて美しい景色なのでしょうね。まるで、果てしない旅を行く長い長い列車のよう。もしくは果てしなく静止し続ける長い長い列車のようかもしれません。街で1番美しいものは、このごみ箱の列なのでした。

見たこともない光景ですって?
そうでしょうとも。これは私が今、書いている絵なのですから。
綺麗な青い空、綺麗な青いごみ箱
美しい白い雲、美しい白い蓋。
色とりどりの花、色とりどりのごみ。
あふれてやっと満ち足りたかのように安らいでいる人と街。

人は、この絵を見て、これは平和を描いたものですか、と聞くかもしれません。
あるいは、これは環境問題について書かれたものですねと。また、ごみ箱はいつまで増え続けるのですか、とも。
残念ながら、私は何かを考えるような人間ではないので、聞かれても困るのです。また今、万かも千かもしれないごみ箱が、この先どれだけ増えるかも、分かりかねます。ですが、分かっていることもあるのです。それは、この絵は私という老人が見ている街の姿なのだということです。ええ、もちろん、この絵のなかで。

このごみ箱に何が捨てられているのか、私という老人にはわかっているのです。
万とも千ともしれないごみ箱のなかが、こんなにあふれているのですから。
それはそれは、たくさんの、大きなものから、小さなものまでが捨てられているのです。

例えばある日、小さな川がごみ箱に捨てられた時には、たなごにめだかにどじょう、川の側に群生していた野草や野花、しまいには魚釣りの少年や老人までがごみ箱に一緒に捨てられてしまいました。
公園が宅地になった時には、公園ごと、シーソー、ジャングルジム、お砂場、芝生やブランコが、いつも一人で遊んでいた女の子ごと、ごみ箱に捨てられたそうです。
たんぼや畑もごみ箱に捨てられて久しいのですが、今でもスーパーには野菜やお米がたくさん並んでいます。何故でしょう。
きっとまだ捨てられていないたんぼや畑が、どこか遠くに、あるのでしょう。その町では、雀の親子が仲良く鳴いていることでしょうね。
私の街には、もう、雀はいません。後生大事に、プラスチックの容器ばかり大切にして、私は大切な思い出のフィルムも手紙と一緒に、このごみ箱のなかに捨ててしまいました。

おや、一羽のカラスが駅のほうへ飛んでいきましたね。駅にはマクドナルドもケンタッキーもあります。おいしいケーキ屋さんも。きっと駅前ではごみ箱のなかまで売り物を詰め込んで、お客さんを待っているのでしょう。駅とは本当に賑やかな所ですね。

フライドポテトをLサイズひとつ下さい。塩を多めにふりかけて、。コーラもLLサイズでひとつ。

さて、そろそろ、この絵も終わりにしなくては。ですが、どうすれば終われるのか、まったくわかりません。何も思いつかないのです。苦し紛れにごみ箱に、こんな私自身を捨てる余白を書き足してみたのですが、どうでしょう。少しは絵らしくなったでしょうか。
ところで、ここにきて、私は真っすぐな道路に一台の車も自転車もないことに気がつき、驚きました。何か描きこまなければ。せっかくの真っすぐな道なのですから。
そこで、私は車のことが不案内なこともあり、二車線の立派な道路に一匹の猫と、10人乗りの自転車バスを描いてみました。
おや、何やら、絵に愛嬌が出ましたよ。絵のなかのカーショップの主が眉をしかめていますが、絵の外にいる私は嬉しくなって満足したのです。

なので、私はこれで絵を終わらせて、今から駅に行こうと思うのです。言い忘れましたが、駅にはミスタードーナツもあるのです。そこで、いつまで続くかわからない、コーヒーおかわりの自由を、今のうちに、たっぷりと享受しておこうと思うのです。

私は行きます。あの真っ黒なカラスのいくほうへ。






自由詩 街の絵 Copyright 月形半分子 2013-01-17 02:42:27
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