物語
knit

どこかの
寂れた海岸で
練炭を使って
死んだ人がいた

夜寝床について
一日を振り返る
ほとぼりを使って
その人を
火葬する

根を
泥土と
苔を使って
くるんで丸めて
ひとつの小さい
宿り木を作った
斑入りの薄緑の葉を持つその木は
五月になると
花を咲かせる

消えかけた塔から
細い煙が揺らめきもせず
上へ上へのぼっていた
それは
なにひとつ欠けていない
ものの完全な姿
突然猫が出てきて
人の足にすり寄った

裏紙に繰り広げられた
物語は
私たちより先に
終わりに触れる
エレベーターの
五階のボタンを押すような
触れ方で

物語るのは
人でも物でもない
側に
いて欲しい


自由詩 物語 Copyright knit 2013-01-15 14:19:07
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