特売
月形半分子

冬市が始まりました。皆さん、そごうにいきましょう
グランバザールは、パルコ
レッドバザールと言ったら、阪急百貨店
スパークリングセールは、丸井
ではイエローバザールは?……はい、LOFTでぇす。


「三が日は官公庁の期末勤勉手当の支給や、お年玉を貰った中高生の消費意欲の高まりで、福袋などの初売りが飛ぶように売れました」と初売りのニュースにいつも銀座三越の映像が流れていたのは、まだ日本が昭和だった頃。慎ましい日本人が皆、薔薇の包装紙と官公庁の期末勤勉手当てに憧れていた時代。寂れた漁業の手工場の町に住んでいた私には、その初売りさえ夢のような世界に思われていた。商店街には町唯一の「和服・洋装の店スズラン」があって、そこは漁師や加工場の奥様方御用達の店だった。ちょっとしたセールは時々あったが、特売は年に一度。3月だけだった。私はその特売が子供の頃から大好きだった。あのひろいガラス張りのスズランに幟が何本も立ち、店中が飾り立てられて、近くの村や山の向こうからたくさんの人がやってきて、綿の入ったアノラックや防寒の長靴をやれ3割引だ半額だと値踏みしては買って行く。新しい学生服のコートも一割引で並んだ。2階の和服売り場は、入学式用の小紋や留め袖を求める客で、ごったがえすほど華やいでいくのだ。私が小学生の頃は、大きめの防寒着やスニーカーや体操服を買って貰えたし、ある時は特売の日にジーパンを買って貰ったこともあった。スズランの青い青いジーパンは、すぐに私のお気に入りになった。


冬市が始まりました。皆さん、そごうにいきましょう
グランバザールは、パルコ
レッドバザールと言ったら、阪急百貨店
スパークリングセールは、丸井
ではイエローバザールは?……はい、LOFTでぇす。
そして特売は、スズラン、私たちの町のスズラン





自由詩 特売 Copyright 月形半分子 2013-01-14 22:20:08
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