包帯のような空の下
村田 活彦

世界中の男女とセックスフレンドになりたい
だけど今すぐひとりぼっちになりたい
たぶんどこかがぶっ壊れているのでしょう

たくさんのひとに迷惑かけてきました
たくさんのひとをこれからも裏切るでしょう
何でこんなに空っぽなんでしょう
何でみんな足を踏み外さないのかな

ばあちゃんが言ってたんです
あの狭い病室で
僕のこと憲夫おじさんと間違えたくせに
急に正気の顔になって言ったんです
二度とこの世界に戻ってくることはできないんだから
好きな子がいたら今すぐ奪いにいきなさい

子どものころ宇宙が恐くて眠れなくなりました
今もときどきそんな感じになります
自分のなかで夜が渦巻いています
それを言葉にするのにひとの10倍かかるんです

ひしゃげたガードレールを見たんです
こぼれたガソリンに太陽が乱反射して
虹のようにまたたくのを見たんです

何のあてもないのに走り出したいんです
それがどれほど馬鹿げたことかもわかっているんです
あなたに声をかけたくてかけられなくて
その悔しさでまた喉がからからになります
ジャクソン・ポロックは44歳で死んだ
時間が流れていくだけなら
タイムマシンなどないのなら
本当に魂が震えるもののために生きたい

空は頼りないほど薄くて
それでいて美しい包帯のようです
この空の下
あなたもどこかで走っているのでしょう

いつかばあちゃんが言ったんです
正気の顔で言ったんです
二度とこの世界には戻れないの
好きな子がいたら
今すぐ奪いに行きなさい


自由詩 包帯のような空の下 Copyright 村田 活彦 2013-01-14 10:50:04
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