driving alone
大覚アキラ

 年に一度か二度、真夜中に車に乗ってどこか遠くに行きたくなる。すれ違うヘッドライトもまばらな高速道路を、一人っきりで、ただ黙って車を走らせ続けたくなる時がある。
 目的地なんか必要ない。カーステから流れるBGMは絶対にいらない。美しい星空やキラキラした夜景も見えなくていい。ただ、淡々とエンジン音を聴きながら、真っ暗な道を走り続けるだけ。
 必要以上にスピードを出すのでもなく、かといって制限速度を遵守するわけでもない。ごく自然に、その瞬間に必要なだけアクセルを踏み、必要な速度を保ち続けるだけ。
 ハードボイルドを気取っているわけでもないし、決してセンチメンタルな気分なんかのせいでもない。それは、むしろ自意識や感傷とはもっとも遠くにある行為。
 そしてもちろん、意味なんかない。
 数時間ただ走り続けたら、どこか辺鄙な場所にある自動販売機とトイレしかないような名前も知らないPAで車を停める。誰もいないだだっ広い駐車場のど真ん中でタバコを一本吸ったら、それでおしまい。
 次の出口で高速を降りて、Uターンして手近な入口から再び高速へ。家に着くころには東の空が紫色の光に染まり始めている。
 あとは、ベッドにもぐりこんで眠るだけ。


散文(批評随筆小説等) driving alone Copyright 大覚アキラ 2013-01-14 05:48:59
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