その花のなまえ
マーブル



なくしものはないと
あの子は云った
わすれものもないと
あの子は笑うんだ


いつかの夕やけが ぼくの肩にとまった 
片手に乗せた鳥が とおくへ飛び立った
宙を舞う羽の しなやかな つよさと共に


身軽なからだで 
あの子は踊って
愛すべきものを
あの子は抱きしめてばかりいるんだ


「抱きしめる力がわからないの」と云って


クレパスからこぼれた 色彩の海のなか
はてしなく続く憧れは どこにゆくのかな
還らない場所なんて ないのだと 信じてみたんだよ


包みこんだら
あの子はふわり
するりぬけてゆくよ
空気みたいにね


街灯の紳士が立ち並ぶ その灯りがつくまで ベッドの下でうずくまっているうち
おおぞらはどこか 悲しげに考えている 夢の落し物のこととか 不確かな運命だとか
コロナおじさんがみつけた ちいさな花は どうしてあんなに震えているのか
ミモザに聞いてみたけれど 冬の夜明の下で まっしろい息をすることしか出来ずにいたみたい


ここに 一枚の置手紙を書いて テーブルのうえにそっと 置いてみたとしたら
風のうねりのなかで 音符みたいに 飛んだり 跳ねたりして 
きみの住む街角まで ぴゅうと 


そんな想像は こんなにも容易く 壊れかけのオルゴールみたいに とぎれるから
ああ そらが青いねと けらけら 笑った
それでも 雲に乗った あのきもちは やっぱり 忘れたくなくて


ねえ 夜に虹がかかる そんな夢を食べてはねむって 
草原の草花を撫でる指先のリズムで 
あの子のなかに はいってゆく 
それはひかりのなか? やみそうもない雨のなか? 晴れそうもない霧のなか? くらやみの彼方?






自由詩 その花のなまえ Copyright マーブル 2013-01-07 05:17:30
notebook Home 戻る