エレジー
……とある蛙

夕陽のあたる夕暮れの
古いレンガの倉庫街
漂うあの歌 あのメロディーは
港の悲しいエレジーで
昔の俺(おいら)の子守歌

港近くの襤褸アパートで
親父も知らずに育った俺(おいら)
酒場の女のおふくろは
酒に酔っては男を連れ込み
俺(おいら)の横でやりたい放題

おふくろの相手の荒くれは
港港に情婦(おんな)をこさえ
口笛吹いては逢い引きし、
事が終われば消えて行く

なかには船が難破して
帰って来られぬ者もいる
それでもカタワで帰った者は
酒場で一人飲んだくれ

どうにもこうにも
 昔語りのろくでなし
酒場でだれも相手せず、
酔って野良犬蹴飛ばして
自分がそのまま噛み付かれ
慌てて海に飛び込んで
溺れてそのままお陀仏よ

土左衛門になったけど
その土左衛門が父親と
後で母に囁(ささや)かれ
少しの涙もこぼれない

そのまま俺(おいら)も船乗りで
おもしろくも無いコンテナ船へ
詰まらぬ悲しいエレジーは今日も
港に流れてる。
誰が吹くのかハーモニカ
そのメロディーは変わらない。

結局自分も変わらない
親父と変わらぬ生きざまで
汚い酒場で飲んだくれ
ブスな女を争って
いきがかり上、ナイフだし、
刺したつもりが腹刺され
仰向けで見る古臭い
酒場の汚い電球が
俺の最後の風景で
次第に霞んで消えて行く
意識の遠くにあのエレジー


自由詩 エレジー Copyright ……とある蛙 2013-01-05 11:35:00
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