一筆箋 恒子
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 謹んで新珠の御慶びを申し上げます。御父様つたら昨夜の破魔矢を旧年のとお思いになつて、神社へ納めに行かれたのですつて。 恒子


 スミソニアンの地下ボイラア室にはホオチミンの木乃伊が刺さつているつて本当かしらん?  恒子


 御母様、慎一郎さんは最近和三盆にふけつておりましてよ。 恒子


 節分のお豆は食べませんの。歳の数で便秘になります。 恒子


 「夜用」を切らした時ペツトシイツが使える。と閃いたわたくしは俸給日前をドツグフウドで凌ごうと云うのと同じかしら。 恒子


 いづれにしても吸水ポリマアは女性史の新局面を拓いた大発明だと思うわ。だつてタムポンの発想が今や乱暴に見えますもの。 恒子


 おひな様は出すのと仕舞うのが一大事。襖裏に描いて置いて年一遍、裏返して三デー眼鏡の側で飾ると云うのは如何かしら。 恒子


 俺はそろそろいけないから鰻の蒲焼を取つて呉れ、と御父様が仰つた由。深刻だわ。 恒子


 通夜告別式の靴下は、やはり指になつて居ない式が宜しいのでしようか。 恒子


 ホピ族のデニスさんが電話で「嘘ぢやない」と仰つたけれど、あちらは未だ三月三十一日? 恒子


 電気炊飯器の内蓋をし忘れて御飯を炊いてしまつたのつて癪だわ。 恒子


 珠子ちやんのクイズ。三日坊主の照照坊主つてなあんだ。 恒子


 そう云えば、葱坊主の政権構想つて一体何でしよう。 恒子


 電気自動車の走行があんまり静かなものだから、吃驚してわたくし助手席で動けなくなりましたの。 恒子


 梅雨時は関節ばかりか胸椎が痛むそうですね。内科へお行き遊ばせ。 恒子


 ズロオスに氏名を縫い付けると云う決定は少しく野蛮な気も致します。 恒子


 お向いの正太郎ちやんが昨日、サラドの玉葱がお厭やで家出なさつた由。 恒子


 忙しいようで閑、閑なようで忙しく。七夕前は何時もこうですの。 恒子


 御父様の床擦れが一日も早く治りますように。 恒子


 本年初の入道雲。あゝ、是非にも野田鶴声社のホイツスルが欲しい。 恒子


 暑中御見舞申し上げます。ケサ女さんの耳垂れはその後如何? 恒子


 折角のアツプルマンゴオは一つもいたゞかず、到来物の御返しに御近所へ配りますの。御中元つて虚しい。 恒子


 野田鶴声社のホイツスルを買いました。これで淡路島と渉り合えると思います。 恒子


 五輪選手が負けて泣くのは四年間の長さなのだわ。わたくしは十二年経つた事にもピンと来ませんのよ。 恒子


 空がすつかり高くなりました。今夏もアバンチユウル無しで。 恒子


 スコツチヱツグには常づね疑問を抱いておりました。うで玉子に衣を着けるゑげれす人の美学が解せませんの。 恒子


 一句。秋深し蒸かしの芋の二、三本。 恒子


 結婚生活つて、水性サインペンの極細で文字を四十二・一九五キロメヱトル書くようなものぢやないかしら。 恒子


 恒子はすつかりおまゝごとに飽いてしまいました。お暇が欲しい。 拗ね子


 わたくしすつかりリカバリイ致しましてよ。ではラヂオ体操第二を始めます。 恒子


 御父様が散歩中に入歯を川に落とされ、昨日今日と皆で浚せつ工事の由。二十四金の総ですもの、大変に重いのだわ。 恒子


 サンタクロオスが希望の品を簒奪して回ると云うサイレントナイトメア。 恒子


 ハツピイバルスデヱ、ツウミイ。大福は一度に二個が限度です。世界一お腹に重たいお八ツだと思うわ。 恒子


 重箱を一新してやろうと慎一郎さんが塗つて下すつたのだけれど、大晦日になつてもウレタン塗料の匂いが取れません。 恒子



権田原恒子 … 昭和元年十二月二十八日生。ラヂオ体操第二評論家



自由詩 一筆箋 恒子 Copyright salco 2013-01-01 23:05:13
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