カロン
Giton

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「どうだった?」
「なんとも…ひとことでは」
「入るまえに思っていたのと比べて?」
「こんなに誤解や行き違いが多いとは思わなかった」
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漆黒の水面みなもをすべる細い細い平底のふね
渡し守は髪長き少年 地上の誰よりも年老いた少年
「じゃあ、つまらなかったな?」
「つまらなかった…いや、そうとばかりも言えん」
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「じゃあ、おもしろかったか」
にわかにその竿を止め 口もとにうかぶ薄ら笑い
「いや…もう厭になったよ…あんな場所はいちどでいい」
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赤い焔が水面みなもに映る 真っ暗な行く手でちりちり焔が踊る
「舟はどこへ向かっているのだ?地獄か?俺は業火で焼かれるのか?」
「もとの世界へ」漕ぎ手はさびしそうに囁く「おまえにはまだ何も見えぬのだからな」
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自由詩 カロン Copyright Giton 2012-12-27 01:42:21
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