スローライフ(not throw)
村正

ベッドの縁で夜は明けた

琴線は頭蓋骨の中に

そしてそこかしこに

この身が果てなければ

与えられる今日を知る

いまだにそちらを選べない

あきれるような本能からか

誇張された恐怖からか




香ばしい太陽

少し高い食パン

捨てるには惜しい豆

琴線に触れる黒いミル

すべては気まぐれから

「ちゃんと朝も食べなさい」

そういえば母の口癖だった

うたたねと一人の食卓




空き地のバスケットコート

でかいマンションになった

ぼんやりしている

気の抜けた相槌ばかり

興味があるわけでもない

鑑賞用の視線や挙動が

感傷用の景色を追う

気が付けば、昼




「いらっしゃいませ」

誰に向けて言っているのか

指向性の行方を知らない

スパイスを買いに来た少女

「今日はあるんですね」

案内ともらった笑顔

シンプルに成り立っていく

誰かになんて無理なのだろう




「いらっしゃいませ」

「かっこいいなぁ」

被せるように、声

手を引いて行く母親

菓子付きのヒーロー

買ってもらえずに泣く

大丈夫きっといつか

照れ笑いの種になる




バカみたいに売れた

しらたきの数

それに比例するはずの

温かい食卓の数




笑ってごまかしてしまう

ミキサーにかけられた感情

生活の匂いが満ちている

視界は少し澄んでいる

思考に振り回されて

なにが見えていたんだろう

つまづいた小石を拾う

俺たちが望んでやまないものだった




ふらっと買い物して帰る

しらたきととうふと

それから土鍋も

つかわないけどスパイスも




自販機の赤色が恋しい

120円のしあわせを手に歩く

とりあえずの人生を

止まりそうな早さで

ありあわせの人生を

止まりそうな早さで


自由詩 スローライフ(not throw) Copyright 村正 2012-12-26 17:11:42
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