海の底に沈んでるご馳走を食べに行きたくって。
かのこ

暖房が壊れててつかない、誰もいない、この部屋は寒い。
服が洗濯中でこの季節に短パン履いてるのでなお寒い。
今朝、耳鼻科に行くんだったらと母からお金を渡された。
現在は何時。今日は何月、何日、何曜日、空は、何色。わからない。
左から順番に、部屋の温度を測ってみる。
とりあえず一番観測結果の良かった部屋にこもる。
自分が寝ていたのか寝ていなかったのか、わからない。
今日、家に誰も帰って来なかったらいい。
きっと、話し声が疎ましい。
あたしの体温わかってくれない人の音が疎ましい。きっと。
ずっと居間でごろごろしてる。
何か行動起こそうと思ってうろうろしてる。
パソコン画面に貼り付く。
ふらふらしてる。
そんな、どうでもいい罪悪。
誰でも否定してくれればいい。
現在は何時。月曜日じゃないよね?月曜日まではどれくらいの猶予があるのだろうか。
あたしの足元のすぐ後ろは空。崖っぷちがすぐそこにある。
ああ、そんなことより、とにかく、
過食気味の身体を炬燵に埋めて、胃の中全部が気持ち悪い。吐きそうだ。
ずっと消化されずここにあるみたいに。気持ち悪い。
荒れた口内。重い目蓋。髪の毛先。ずれた鼻。皮膚。胃腸。五月蝿い脳天。体感温度幾つ。気持ち悪い。気持ち悪い。
この家。部屋と部屋の距離がどうしてこんなに遠いの。
どうして浴室がそんなに冷たいの。
ドアが震えるの。
未だ、生きているうちに飽食を食い尽くす。人間辞めたい。自分を辞めたい。
枯れた向日葵みたいな、こんな手のひらは要らない。この細い細い腕が、木の枝だったらいい。
お尻が金魚の尾びれになったらいい。服は洗濯の手間がかかるので要らない。鱗でいい。
こんな繊細で精巧にできた感覚器も、神経も、ああ、憎き脳内物質よ、怨めしや。
これは取って置いて、海の底の肥やしにしたらいい。プランクトンに食い尽くされるまで。
口の要らない生物で、
正しい判断を下せる判断力だけ、
今までひた隠し、この皮膚の下で培ってきた自分は、最高に醜い。馬鹿で、無様で、それでいて見栄っ張りで貪欲で傲慢で。
我慢のやり方がわからない。休憩のやり方もわからない、労働も、交際も、この部屋での泳ぎ方も、やっぱりわからない。
なんだか・・・ああ、変な音が聞こえるんだ。


未詩・独白 海の底に沈んでるご馳走を食べに行きたくって。 Copyright かのこ 2004-12-20 15:25:02
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