言えない愛
HAL
愛と云う概念を言葉にしたものは
明治維新までは日本にはなかった
そのためツルゲーネフの小説
「アーシャ」に登場する女性が言った
「I love you」を「死んでもいいわ」と
三日三晩悩み続け訳したのが二葉亭四迷であり
一方「I love you」を「月がきれいですね」
と云う言葉で表現したのが夏目漱石
さらには漱石が《LOVE》を《愛》と訳したとも言われている
本来 日本にはなかった《愛》である
そんな日本語でもない言葉を
ぼくはその女性がどれだけ好きでも
愛してるとは余りに面映ゆくて言えない
もし「あたしこと 好き?」って問われたら
ぼくは即座に「もちろん」と言える
でも「あたしのこと 愛してる」と訊かれると
ぼくはどうしても口籠ってしまう
だけどショーペンハウアーが
「愛はすべての性欲に根ざしている」
との言葉はなぜか感覚的だが分かるんだけど