『目指すもの』
あおい満月
この血であなたの心臓を突き刺したい
ナイフを手にその背中を追いかける
あなたは急に立ち止まり振り返って云う
刺せるものなら
刺してみろ
わたしはナイフを突き
刺し殴る
かえり血で濡れる身体は
どこまで刺しても
心臓まで届かない
*
壁がある
どこまでも届かない壁
壊しても壊す程に
壁は高くなる
すんでのところで息詰まる
別の横道を探したら
わたしは奈落に落ちてしまう
かろうじて滴る雨に
わたしはぶら下がる
宙に泳ぐ
身体が冷えていく
**
失神する味があるように
失神させることばがある
わたしはそのことばの呼吸が
あなたの心臓から欲しい
刺せるものなら、
刺してみろ
その声のなかにわたしはいない
わたしはそれが悔しくて
何度もナイフで殴りつける 何度も、何度も
殴りつけたのは
あなたではない
わたしの心臓だった
どんなに血を流しても
まだ壁には届かない
今にも崩壊しそうなのに
わたしはなぜ、
あの壁が赦せないのか