修辞
salco

 讃辞

あなたのセーターは暖かそうだ
あなたの体は温かそうだ
あなたの体温は優しそうだ
心が優しそうだ


 犬

霧雨がそぼ降っている
門灯はあかあかと
門扉は堅く閉ざされている

重たいボストンバッグを足元に置いて
犬はいつ迄もその前で待ち続けていた
いつ迄もそこに立ち尽くしていた
(或いは犬を老人、と置き換えても良い
          もしくは愛、と)


 又は人

板橋区常盤台3丁目
高原医院の手前の角には
人間の顔をした犬がいて
「どうか私を飼って下さい」と
後をついて来るのだ
1年も2年もついて来る


 天使と悪魔

余計なお世話とは、例えば
元来羽根の生えている赤ん坊に
タカイタカイをするが如しだ
つまり天使を抱え上げる
大人の尻には例の矢印が生えている


 食券

ロックはセックスだ
セックスはロックじゃない
演歌?
主観を外すと間々、シラける


 定理

意地の悪い仏陀みたいに黙然と
捨てられた子供さながら
しれっとしている
お前の賛助など要らないと

こーゆー表情
男子にされると
放って置けないんだよね〜〜


 自食する動物達

タコは己の肢を食い
ネコは怯えて仔を食らい
ヒトは己の未来を齧る
おぞましいメルヘンの筋書きの中
巨大なキノコの傘の下
自ら小人と成り果てて
かつてないほど極小の
救い難い小人と成り果てて


 私

道の無い地図の上で
番地の無い街の中で
時間の無い空の下
歩道橋から下りかけて
自分は一体どこにいて
どこへ行くのかという気持
看板の無い商店
名前の無い私


自由詩 修辞 Copyright salco 2012-12-05 00:02:23
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