明日ぼくらは葬列に混じる
ホロウ・シカエルボク



明日ぼくらは葬列に混じる、くらい顔をした大人たちと、ぽかんとした子供たちと一緒に
明日ぼくらは葬列に混じる、急なことでちゃんとした服を用意できなかったことを気にしながら、どうしてもなおせなかった後ろ髪の寝癖を気にしながら


ねえ、街に沿って流れる河の側に伸びる道路の車線が少なくなるあたりの河原で
あちこちで拾ってきた死んだ猫や犬のお墓を作ったよね
そいつらのほとんどは車に撥ねられたり轢かれたりしたやつで
ナップサックの中で形すらわからなくなるやつもいたよね
あのとききみは幾つだったんだろう、あのときぼくはなにを考えていたんだろう
車線が少なくなるあたりの河原にはかなしい話がたくさんあったね
老夫婦が焼身自殺をしたって言われてる
真っ黒に焼け焦げた骨組だけの軽自動車があったりしたね
僕らその落ちたバンパーにもたれて
薄暗くなるまで眠っていたことがあったよな


明日ぼくらは葬列に混じる、どうしてだろう、どんな顔をしていればその場に相応しいんだろう、逝ってしまった命に相応しい表情なんてぼくは知らない、いやもしかしたらそれはみんなそうなのかもしれないけれど
壁に掛けられた明日の為の服に目をやるたびに目の奥がごろごろするんだ
明日ぼくらは葬列に混じる、そのために変わってしまう予定のことを考えたり忘れたりしながら、帰路にはつかないひとと一緒にしんとした車に乗る


河が何もないところに向かって緩やかにカーブするところにもう開いていない駄菓子屋があったじゃない、半分ボケたおばあさんがある日道路から河原に落ちてしまって死んじゃった駄菓子屋、あの駄菓子屋の勝手口はずっと鍵が開いていてさ、そのことを知っているのはぼくたちだけだったね
動物たちを埋めたあとはいつもそこに忍び込んで、分厚い木戸の隙間から入ってくるひかりを見ながらカビ臭い畳に座っていたっけ
そんなことあんまり知らないころからなんとなくキスしたりなんかしてた、たぶんドラマかなんかで覚えて
ぼくはいまでも覚えている、それはぼくらに相応しい秘密だった
ホームセンターで盗んできた虫が来ない薬を定期的に撒いて
ぼくらは出来るだけその秘密基地を綺麗にしてた
ふたりの秘密が込み入ったものになり始めてからは余計に気を使った


あしたぼくらは葬列に混じる、どうしてそこに行くのか理由もわからないままに
明日ぼくらは葬列に混じる


駄菓子屋が取り壊されたのは道路や建物が妙に綺麗になりはじめたころだった
更地になった秘密の前で制服を着たぼくたちはぽかんと立ちつくしていた
道路が拡張されるというようなことが書いてある小さな看板がそこに立てかけてあった
きみは泣きながらその看板を強く蹴ると、すたすたと河原に降りてぼくらだけの墓地に向かった
そのころにはもう埋葬をすることは止めていた
一番最後に埋めた犬の墓の前できみはしゃがみこんでずっと身体を震わせていた
ぼくはなんと言っていいのかわからずに
ずっときみの側に立って河の流れを見ていた


ぼくのかなしみはどうしても涙にはならなかった
どうしてきみは
あんなに泣いたのか
それはどんなに時が経ってもわかることはなかった


すべてが終わり、ぼくは真っ黒なネクタイを外して
ひろがった道路の真ん中に突っ立っている





あのときのひかりはどこに行ったのだろう





自由詩 明日ぼくらは葬列に混じる Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-12-01 01:49:07
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