うつむいて
小原あき

今年のさくらは覚えていません
きみを想い
あふれる涙を隠すため
うつむいていたから

きみと出会った春でした
あまりにも嬉しくて
あまりにも情けなくて

母さんの力は
この両手だけしかなくて
それはあまりにも非力で

保育器の中のきみは
小さく生きていました
励ますつもりが
励まされていました

今年のさくらは覚えていません
母親なのに
泣いていてはいけないと
うつむいていたから

だけど堪えることはできないのです
それはまるで汗のよう
でも汗とは逆に
冷えた体を温めるのです

きみと見たのは
真っ赤に燃えるさくらの葉
きみを抱き締めたのは
寒いからではありません

今年のさくらは覚えていません
だけど、来年のさくらは
きみと一緒に見上げてみたいと
願っています





自由詩 うつむいて Copyright 小原あき 2012-11-27 16:55:08
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