『流血』
あおい満月

カンヴァスに描いた静物画に
わたしは真っ赤な色を置く
油絵を描く時は
その目に映るものの色と
正反対の色を置くことがルールだと
痩せぎすの美術教師が言った

透き通る硝子も
色鮮やかな花も
すべて赤で塗りつぶす

絵の具の、
どんな赤でも足りなくなって
切りつけたナイフ
手首の血でも塗りつぶす

血は、
カンヴァスに染み込んで
足跡を残さずに乾いていく

あなたの絵には、
懐かしい匂いがします。
幼い頃、
転んで擦り切れた
膝小僧の赤い血の匂い

そう、
あなたの絵には
いつも血が存在する

美術教師が賞賛した日から
わたしは流血女と揶揄された
わたしの机の上に
経血でぐっしょり濡れたナプキンが置いてあったり
使用済みの体毛用の剃刀が
下駄箱に入っていたり
けれど不快ではなかった

流血女。
美しいじゃないか。

不快なものほど光を帯びる
わたしは現在、
再び血を流しはじめている
ことばという
大海に続く川に



二〇一二年七月


自由詩 『流血』 Copyright あおい満月 2012-11-20 17:13:50
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