正気の沙汰
ただのみきや

霙と嵐と雷鳴で
十一月の夜が揺さぶっている
手のうちなんざ知れたもので
瞳は渇いたまま空を切る

初雪が覆った小さな棺
添い寝をしたくてもできなかった
小さな棺がゆらゆらと
時の浪間を漂って

詫びを入れるか十一月よ
別におまえのせいではないさ
寒くなったら痛みだす
体中が呻きだす

年中捻挫の足首やこっぴどくやられた左膝
仙骨歪みの腰痛に長い付き合いの偏頭痛
冷気が沁みるのは知覚過敏の歯だけではない
潔癖症で拭きすぎた尻までひりりと痛みだす

中でも一番痛いのは四年前に切り取られ
小さく萎縮した心
鳴くことを知らない生き物が漏らす呻きのように
魂と容器の軋轢が ひび割れた声で沈黙している

握りつぶされる小鳥の震え
握りつぶす手の震え
それは一つの悪夢のように
決壊した過去から溢れ氾濫する

あの日一緒に燃やした花束の
色素が移った骨の欠片
かわいいねこんなになってもかわいいね
微笑みながら泣きながら

だが霙と嵐のこんな夜は
目をとめる全てのものが陰鬱だ
扉を叩くおれがいる
それを無視するおれがいる

瞳は渇いたまま空を切り
切って切って切りまくる
壊疽した果実にカミソリめいた
正気で笑って狂って切って



自由詩 正気の沙汰 Copyright ただのみきや 2012-11-18 23:47:17
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