由比良 倖

虹を浴びていると存在がくるくるまわる。自傷。叡智。笑い。堪えきれなくなる。きみどりいろの空。大きな大きな卵に温められた空色のことり。
コップ一杯の涙を電気会社に支払う。何度も何度も、√の形に区切られる私の心。分裂した泡状の空が、私には魚に見えない。フルーツを排水溝に押し流すと、私の底にある涙目の生命体が、ひと揃いの数列を差し出すが、それは吹き流しのように私の焦点からは身を躱してしまう。

さようなら、冬。笑いながら僕はほどける糸の泉になる。
あちら、こちら、に静寂がある。
歩む、さきざきで、死人が孤独を、拾い喰いして。

光に嘘も真もあるものか。(渇望がふやけ。)七色に千切れ飛んでいく眼差し。
少女たちは少女を遊んでいる。肉なら幾らでも裁断してくれたまえだ。興味の無さを培養にして影絵の誘惑にも惑えず、私は遠い予感の中に身を崩してしまう。みんな忘れてしまいたいのです。私は私の境界だけになりたい。

涙の影が坂になり私は奈落へと融けていく。

朝から薬を使って眠る。優しさに衰弱してしまう錯覚。空からは離れていく? そう感じる。ぎゅぅっと瞼を押さえつけると、拡がり行く、薄まり行く空間に白光の卵子が拡散される。私たちは生まれていく。奇跡の海へ。あの人たち透きとおった藍色のミツバチが、花に群がればいい。

ここに立って見えるのは、廃墟だけだ。(僕はそれも好きだな。

鏡にはいつかの惨状。死相の上に私をなぞる。コーヒーを温める。ひとり分の充足で世界が変わるの? 押し売りできるのは不幸だけだから、私はとろとろまどろむ。感覚(気体。私は、世界の前世を思う。それはきっと、ここと同じように、悲しかったのだ。

(この時間駅で轢かれる魂は不問に帰される。僕は限度額一杯に過去を凍結してレールの上で含み笑いを抑えきれずにいる。

私はただスピードが欲しいのだと言ったら君は笑うだろうか。

部屋をきちんと片付けて、例えば本棚なんかを小一時間視界で撫でさすり、私の「死」が、この部屋、私のうちの空気に馴染んでくれればいいのだがな、と思う。人為的な信号が私をむかつかせる。夢の中では私の浮力は地球でさえも引き揚げてしまうの。

(「現実なんて。ねえ、そんなのは大したことじゃないんだよ」)


自由詩Copyright 由比良 倖 2012-11-13 01:00:59
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