サーモンデー・フェスティバル
夏美かをる

今年も行った サーモンデー・フェスティバル
鮭が地元の川に戻ってきたことを祝う
アメリカ・ワシントン州イサクアという町で
毎年行われているフェスティバル

お祭りといっても
焼きそばやお好み焼きを売る屋台もないし
ヨーヨー釣りも金魚すくいもない
あるのは
クラフトと食べ物の出店のみ
クラフトには興味がないし…
食べ物は何があるかというと
ホットドック、ピザ、ステーキバーガー、とうもろこし
得体の知れない照り焼きチキンやチャイニーズ…
食べたいと思うものがない

アメリカのお祭りっていつもこんなもん!
別に面白くないんだよね
なんで来ちゃったんだろう?
なんて
ちょっとネガティブな気分で歩いていたら
旦那のお姉さんに会った

「サーモンデー・フェスティバルは毎年必ず来てるから、
 今年も来なくちゃ!って思ってね。You can't miss it, can you?」

自分に言い聞かせるように そう言った
お義姉さんのヘーゼル色の瞳が 
午後の日差しに反射して
キラリと美しく光った瞬間
私の胸がキュン!と痛んだ

“今年もサーモンデー・フェスティバルに行かなくちゃ!”
その思いだけが、その日のお義姉さんの背中を押していたに違いない

初老のボーイフレンドと手をつないで
お義姉さんは去って行った

寄り添う後ろ姿を見ながら
やっぱりまた来年もサーモンデー・フェスティバルに来なければならない、と思った
つまらないとかマンネリだとかそんなことには関係なく
必ず家族4人でここに来なければならない!と思った
再来年も その翌年も 翌々年も…きっと来なければならない!
母川回帰する鮭達のように
私達も毎年ここに戻ってこなければならない

「ねえ、また来年もこのお祭りに来たい?」
「うん! 来たい!」
「じゃあ、またみんなで来ようね」
両方の手にひとつずつ
二つの小さな手をぎゅっと握りしめた



翌日からお義姉さんの抗がん剤治療が再開した
せっかく生えてきた髪の毛がまた抜けてしまうだろうから
かつらを新調しようかしら…と明るく言っていたらしい



お義姉さん、
来年もサーモンデー・フェスティバルで会おうね!
お義姉さんがイサクアに移り住んでから20年間
毎年必ず行っているお祭りだから
きっとまた来年も行かないとね!
きっと、きっと!
You CAN'T miss it!


自由詩 サーモンデー・フェスティバル Copyright 夏美かをる 2012-11-09 12:02:48
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