世界を問い直すためのエスキース(習作)1
N.K.

一世代前の良い思い出を追って
家族で映画を見に行った日
子ども向けの映画の中では
キャラクターたちが絵本の世界へ行ったから
ママは世界に行ったと娘が言い出す
帰る途中に買い物をする妻を待って
スタンドで娘とジュースを飲んでいるときに

たぶん今日の夕御飯のおかずの世界に
ママは行ったんだよと答えて
世界がそんなに多元なものか
と思いかけて
少なくとも目に映る総菜売り場の
混雑の分だけ世界との関わり方はありそうだ
ということに思い至る

行き交う多様な個人が選んだ
かけがえのない個々の世界が行き交う
空間に映るものだけではなく
過ごしてきた時間を纏わせながら

それぞれの時間を吸い寄せながら
目の前を雑踏のように交差する
尊重されるべき多元性の世界は
人々の目にどう映っているのだろうか

安心させようとして
ママはすぐ戻って来るよと話しかけた
娘には娘の世界ができつつあると
改めて娘の顔を覗き込んで思い至った
そう言えば今日は
娘の乳歯が初めて一本抜けた日


自由詩 世界を問い直すためのエスキース(習作)1 Copyright N.K. 2012-11-03 19:07:43
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