『く の 人』
るるりら



想像力だけで生きるなんて悲し く 
それでも あらんかぎりの言葉をめぐらして 書く
かんがえて かんがえてを くりかえすほどに
言葉は みじかく ほんの一行で事足りる
あんまりといえばあんまりに短い 【好きです】に
届けなかった言葉に 体は くの字に 折れ曲がって ゆ く
プラットホーム列車が出るたびに 凍る
様々な不響和音で構成された沈黙が 
ゴミだと言い聞かせても ドクドクする文字を凝視するから
ゴミをゴミとして捨てることができずに 掌の中で握りつぶされて
さらに結晶化するのを もてあましてゆ く

朝日の中で わたしそびれた言葉は
夕闇の中で くの字になった その紙に書かれた文字に
こころもからだも傾ぐ 琥珀石の中の昆虫の話を教えてくれた人はあの人だった
くの人は
く の 字の形に 傾ぐ
遮断機のベルが どんなにけたたたましい音をたてようとも
どんなに麗しい琥珀色の夕映えが 呑み込もうとしても

くの字の人には
その掌に握られた
たった ひとつの言葉だけに愕然とし
その辺の紙に描いた
書かれた 一枚の へたな絵が
永久に自分の事だと心に決めたのでした

 くの人の その痛みは
          種でした


あらんかぎりの創造力で
胸をひらこうとしていた あの夕映え
あの琥珀色の空を
いまも歩く

くの字の人の 背中が
折れ曲がってこようとも
どうしてもゴミにしない言葉だけで
歩いて く


携帯写真+詩 『く の 人』 Copyright るるりら 2012-10-22 09:23:01
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